パワー半導体とは? 高校生にもわかりやすく役割と機能を解説② ACアダプターの仕組み

2026年10月26日

  • LSI設計
第1部では、「パワー半導体」の役割や機能、電力変換の種類について解説しました。

第2部では、私たちの身近にあるACアダプターを取り上げます。ACアダプターは、スマートフォンなどを充電するときに使う製品です。コンセントに差し込むだけで、家庭用のAC100Vをスマートフォンが使えるDC5Vなどの電圧へ変換します。

では、ACアダプターの中で「パワー半導体」がどのように電力を変換しているのかを解説します。

ACアダプターの電力変換の流れ

図6は、皆さんよくご存じのポケットにも入るほど小さなACアダプターですが、その内部には、たくさんの技術とパワー半導体が詰め込まれています。
では、スマートフォンのACアダプターの中では、どのような電力変換が行われているのでしょうか。
図6 最近の小さなACアダプター
図6 最近の小さなACアダプター
図7は、ACアダプターの回路構成を簡略化したものです。
ACアダプターの中
図7 ACアダプターの中
ACアダプター内部で行われる電力変換の流れは、次のようになります。
AC100V(交流) → コンバーター → DC140V(直流) → レギュレータ → DC5V(直流)
ACアダプターの内部では、主に次の2つの変換が行われています。
機能 役割
コンバーター(AC/DC変換) AC100VをDC140Vへ変換する
レギュレータ(DC/DC変換) DC140VをDC5Vへ変換する
まず、コンバーターによって交流電圧(AC)を直流電圧(DC)へ変換します。

コンバーターは交流を直流へ変換する

家庭用コンセントからはAC100V(交流電圧)が供給されます。ですが、スマートフォンなどの電子機器では、直流電圧を使用します。まず、ACアダプターの中にある「コンバーター(AC/DC変換回路)」が働き、AC100Vを直流電圧へ変換します。

図8~図10は、AC100VがDC140Vへ変換されるまでの電圧波形を示したものです。

コンセントの右の穴からAC100Vが、左の穴から基準のグランドがコンバーターへ入力されます。AC100Vは、図8のような電圧波形をしています。
AC100V
図8 AC100V

ブリッジダイオードで交流を整流する

電圧はプラスとマイナスを繰り返しながら変化していて、実際には約±140Vの範囲で動いています。

最初に動作するのが、コンバーター内部の「ブリッジダイオード」です。ダイオードは、電流を一方向だけに流す半導体です。この性質を利用して、交流電圧を一方向だけにそろえる動作を「整流(せいりゅう)」と呼びます。

ブリッジダイオードを使用すると、交流電圧のプラス側とマイナス側の両方を同じ向きにそろえることができます。これを「全波整流(ぜんぱせいりゅう)」と呼びます。図9は、AC100Vを全波整流したときの電圧波形です。全波整流すると電圧の向きは一方向になりますが、電圧はまだ変化しています。
全波整流
図9 全波整流

コンデンサで電圧を滑らかにする

全波整流した電圧を安定させるために、図7のコンデンサAが働きます。コンデンサは、電荷(電気の量)を一時的に蓄えたり放出したりする部品です。電圧が高いときに電荷を蓄え、電圧が低くなったときに蓄えた電荷を放出することで、電圧の変化を小さくします。その結果、図10のような比較的安定したDC140Vになります。
図10 DC140V
このブリッジダイオードは、±140V程度の高い電圧を扱います。このような高電圧を扱うダイオードは、半導体部品としてのパワー半導体に分類されます。ACアダプター内部には、このような高い電圧が存在します。ですが、実際の製品では「二重絶縁」などの安全対策によって、ユーザーが感電しないように設計されています。

レギュレータは必要な電圧へ変換する

コンバーターで作られたDC140Vは高い電圧なので、そのままではスマートフォンでは使えません。

スマートフォンが使えるDC3VやDC5Vといった低い直流電圧に変換する「レギュレータ(DC/DC変換)」が次に働きます。最近の小さなACアダプターでは、「スイッチングレギュレータ」という方式が広く使われています。

まず、スイッチングレギュレータの概要を説明します。図7をご覧ください。スイッチングレギュレータの中では、「フライバックトランス」と「トランジスタ」と「制御IC」が重要な役割を担っています。

フライバックトランスで電力を2次側へ伝える

フライバックトランスは、1次側の電力を磁気エネルギーで蓄えて、ある瞬間に2次側へ電流 I2(黄色矢印)として放出する仕組みです。「うしろ(2次側)へ飛び出す」ような動作から「フライバック(Flyback)」と言われています。このフライバックトランスの1次側に、DC140Vとトランジスタが接続されています。このトランジスタは、大きな電流を流したり止めたりできるスイッチの役割を持っています。このトランジスタも半導体部品としてのパワー半導体です。
このスイッチをオン・オフしているのは、制御ICが出力している「SW信号(スイッチしんごう)」です。SW信号は、1秒間に7万回も高速にトランジスタをオン・オフしています。2次側へ飛び出した電流 I2はダイオードAで整流された後、コンデンサーBで滑らかにしてDC5VとしてACアダプターから出力されます。

* 制御ICは、SW信号を調整して次の状態を保とうとします。
  • 出力電圧をDC5Vにすること
  • スマートフォンへ必要な電力を供給すること
  • 負荷電流 IL が増減しても、出力電圧DC5Vを保持すること
ICは「Integrated Circuit」の略で、半導体集積回路を意味しています。

SW信号で出力電力を制御する

図7のようにACアダプターからスマートフォンへ、主にバッテリーを充電するための電流 IL(黄色矢印)が流れます。電流 ILを「負荷電流」と言います。図11は、スマートフォンの動作によって変化する負荷電流 IL の波形です。図12は、出力電圧 DC5Vの波形です。スマートフォンは常に同じ電力を消費しているわけではなく、動画視聴やゲームなどによって必要な電力が変化します。
電流 IL(負荷電流)
図11 電流 IL(負荷電流)
DC5V(出力電圧)
図12 DC5V(出力電圧)
図11 [0] の期間は、スマートフォンへ一定の負荷電流 IL が流れています。図7の、フライバックトランスから流れる 電流 I2(供給) と、スマートフォンが必要とする 電流 IL(需要) のバランスが取れていて、図12の出力電圧 DC5Vは安定 しています。図11 [1] で、スマートフォンを充電しながらゲームを始めたとします。CPUやGPUや液晶画面などが動きだすことで、負荷電流 IL が増加します。すると、一時的に電流 I2の供給が追いつかなくなり、不足した電流をコンデンサBが補います。その結果、コンデンサBの電荷が減少し、図12 [2] のようにDC5Vの電圧が低下し始めます。制御ICは、図7のようにフォトカプラを経由して、このDC5Vの電圧低下を検出します。ACアダプターは、この瞬間も必要な電流をスマートフォンへ供給し続けます。

低下し始めたDC5Vをどうのように一定に保っているかを説明する前に、SW信号と電流 Iswと電流 I2の関係について説明します。

図13は、SW信号の電圧波形です。
SW信号
図13 SW信号

SW信号にはDUTY(デューティ)がある

SW信号は、トランジスタをオン・オフするためのデジタル信号です。

トランジスタのオン・オフを、このSW信号が 1秒間に7万回(70kHz)ものスピードで切り替えています。特徴的なのは、オンの時間を長くしたり短くしたりできる点です。このオン時間の割合を「DUTY(デューティ比)」と言います。1周期の半分(50%)がオンになっている状態を「DUTY50%」と言い、オンの時間が80%ならDUTY80%、30%ならDUTY30%です。オンの時間は変わっても、1周期の長さ(約14μs)は変わりません。

SW信号がオンになると電流Iswが流れる

SW信号がオンになると、図7の
DC140V → フライバックトランス → トランジスタ → 0V
の経路で電流 Isw (黄色矢印)が流れます。
図14は、電流 Iswの波形です。
電流 Isw
図14 電流 Isw
電流 Iswは、SW信号がオンの間に電流が増えていきます。この電流の変化分が、フライバックトランスに磁気エネルギーとして蓄えられます。SW信号のオン時間が長いほど、蓄えられるエネルギーが大きくなります。

DUTYによって入力電力が変化する

たとえば、DUTY50%のとき、Iswの ピーク電流は 180mA(ミリアンペア)です。平均すると約45mAです。

この時、DC140Vからフライバックトランスへの入力電力は 約6.3W です。
入力電力 = 電圧 × 電流 = 140V × 0.045A ≒ 6.3W
DUTY80%では入力電力は約16.1Wまで増え、DUTY30%では約2.2Wまで下がります。SW信号がオフになると、1次側の電流 Isw は止まります。止まった瞬間、フライバックトランスに蓄えられていた磁気エネルギーが電力として2次側へ放出されます。図15は、フライバックトランスの2次側へ流れる電流 I2 の波形です。
電流 I2
図15 電流 I2
電流 I2 は、SW信号がオフになって 電流 Isw がゼロになった瞬間に最大値(ピーク)となり、その後減少していきます。

1次側と2次側のコイルの巻き数比で電流I2が決まる

電流 I2のピーク電流の値はフライバックトランスのコイルの巻き数比で決まります。

図7では1次側と2次側の巻き数比が 14対1 になっているので、2次側の電流 I2には1次側の電流 Isw の 約14倍のピーク電流 が流れます。

DUTY50%の場合、電流 Isw のピーク電流は180mAです。ですので、電流 I2 には 約2.52A のピーク電流が流れ、出力電力は 約5W になります。DUTY80%では、電流 I2に約4.03Aのピーク電流が流れ、出力電力は 約12.7W に上がります。DUTY30%では、電流 I2に 約1.51A のピーク電流が流れ、出力電力は 約1.7W に下がります。

このSW信号→電流 Isw→電流I2 の仕組みを使ってDC5Vを一定に保つ動きを説明します。

負荷電流が増えるとDUTYを大きくする

図12で中断した「低下し始めたDC5Vをどうのように一定に保っているか」の説明にもどります。スマートフォンでゲームを始めると、負荷電流ILが増加し、不足する電流をコンデンサBから供給するとDC5Vが低下します。図12 [2] でDC5Vの低下を検出した制御ICは、図13 [3]でSW信号をDUTY80%に変更します。DUTYが大きくなると、トランジスタのオン時間が長くなり、図14 [3-1] のように1次側の電流Iswが増加します。電流Iswが増えると、フライバックトランスに蓄えられるエネルギーも増加します。その後、SW信号がオフになると、図15 [3-2]のように2次側へ流れる電流I2も増加します。電流I2が増えることでコンデンサBの充電量が回復し、図12 [3-3]のように低下していたDC5Vが5Vへ戻ります。

次に、図11[4]でスマートフォンでのゲームや充電が終了すると、負荷電流 IL が減少します。すると、電流 ILよりも電流I2が多くなり、コンデンサBの電荷が増えます。その結果、今度は図12 [5]のようにDC5Vが上昇します。
この電圧上昇を検知した制御ICは、図13 [6]でSW信号をDUTY30%へ下げます。DUTYが小さくなると、トランジスタのオン時間が短くなり、図14 [6-1]のように電流 Isw が減少します。電流Iswが減少すると、フライバックトランスから2次側へ流れる電流I2も図15 [6-2]のように減っていきます。これによってDC5Vの上昇を抑え、図12 [6-3]のように5Vへ戻します。

このように、制御ICはDC5Vを監視して負荷電流ILの変化を検知し、SW信号のDUTYを調整します。DUTYを調整すると1次側の入力電力(電流Isw)が変化し、2次側の出力電力(電流I2)が変化します。この制御によって、スマートフォンの消費電力が変化しても、出力電圧DC5Vを一定に保ち続けることができます。ここでは説明を分かりやすくするために DUTY50%、80%、30% の3例を示しました。実際の制御ICはさらに細かくオン時間を制御して、スマートフォンの状態変化にリアルタイムで対応しています。

フォトカプラで2次側の情報を1次側へ伝える

制御ICは、DC5Vの変化を検出してSW信号を調整します。フライバックトランスによって1次側と2次側は電気的に絶縁されています。場合によっては、1次側と2次側は数百ボルトといった電位差になることもあります。そのため、DC5Vを制御ICへ直接接続することはできません。制御ICはフライバックトランスの1次側の電圧で動作していて、DC5Vは2次側にあります。ここで使用するのが「フォトカプラ」です。フォトカプラは、1次側と2次側を電気的に絶縁したまま、電圧などの情報を光信号によって伝える部品です。この仕組みによって、1次側の制御ICは2次側のDC5Vを監視できます。

ACアダプターの変換効率はなぜ重要か

これまで見てきたACアダプターは、コンバーターでAC100VをDC140Vへ変換し、その後、スイッチングレギュレータでDC140VをDC5Vへ効率よく変換しています。では、この「効率よく」とは、どういう意味なのでしょうか。

ACアダプターが安定動作しているとき、入力側では約6.3Wの電力をコンセントから受け取り、出力側では5.0Wの電力をスマートフォンへ供給しています。入力と出力の電力比を「変換効率」と言い、このACアダプターの変換効率は次のように計算します。
変換効率 = 出力電力 ÷ 入力電力
= 5.0W ÷ 6.3W ≒ 80%
変換効率の80%という数字は、ACアダプターとしては非常に効率が高いことを意味します。

変換効率が低いと損失が大きくなる

入力6.3Wで出力が5.0Wなので、差の1.3W(入力電力の20%)は失われています。この失われた電力を「損失」と言います。では、消えた1.3Wはどこへ行ったのでしょうか。そのほとんどは、部品から出る熱に変わっています。ブリッジダイオード、トランジスタ、ダイオード、フライバックトランス、コンデンサ、制御ICなど、ACアダプターを構成するすべての部品で熱が発生します。これらの熱の総和が、1.3Wの損失になっています。つまり、変換効率が低いほど、多くの電力が熱として失われます。電子機器では、この熱が大きな問題になります。熱が上がると、寿命が短くなったり、性能が不安定になったりするからです。そのため、電子機器の設計では、熱をどう逃がすかを考える「熱設計」が非常に重要になります。
今回は身近なACアダプターを取り上げて、交流(AC)がどのように直流(DC)へ変換されるのかを通して、パワー半導体がどのように働いているのかを解説しました。第3部では、最後に登場した変換効率という指標を使って、パワー半導体の進歩が電力の変換効率にどのように関わり、電力の未来がどのように変わっていくかについて解説します。