パワー半導体とは? 高校生にもわかりやすく役割と機能を解説③ パワー半導体の未来
2026年10月26日
- LSI設計
第2部では、スマートフォンなどの小さなACアダプターの中で、「パワー半導体」がAC100VをどのようにDC5Vへ変換するのかを解説しました。
第3部では、「パワー半導体」の進歩が電力の変換効率にどのように関わり、暮らしや社会の中の電力の未来について解説します。
第3部では、「パワー半導体」の進歩が電力の変換効率にどのように関わり、暮らしや社会の中の電力の未来について解説します。
スイッチング方式とトランス方式の違い
図16は、スイッチング方式が普及する前に広く使われていた「トランス方式」のACアダプターです。

図16 トランス方式ACアダプター
コンセントのAC100VをDC5Vへ変換しますが、その仕組みはスイッチング方式とは大きく異なります。
トランス方式ではAC100VをAC10Vへ下げる
トランス方式では、次の流れで電力を変換します。
AC100V(交流)→ AC10V(交流)→ DC10V(直流)→ DC5V(直流)
まず、コンセントのAC100Vをトランスで約10分の1の AC10Vへ降圧します。その後、ブリッジダイオードで全波整流し、コンデンサで波形を滑らかにすると、図17のようにリップルを含んだDC10Vが得られます。
リニアレギュレータでDC10VをDC5Vへ変換する
トランス方式では、その後「リニアレギュレータ」を使用します。リニアレギュレータもDC/DC変換を行いますが、スイッチングレギュレータとは電圧を下げる方法が異なります。リニアレギュレータでは、不要な電力を熱として捨てることで電圧を下げます。
図17で、DC10V・10Wから、リニアレギュレータで5Wの電力(斜線部)を熱として捨てて、出力のDC5V・5Wを作っています。
図17で、DC10V・10Wから、リニアレギュレータで5Wの電力(斜線部)を熱として捨てて、出力のDC5V・5Wを作っています。

図17 リニアレギュレータのDC/DC変換
トランス方式は変換効率が低い
トランス方式のACアダプターでは、コンセントのAC100Vから約16Wの電力を取り出して、DC5Vの5Wを外部へ供給します。
損失の内訳は次の通りです。
損失の内訳は次の通りです。
トランス:約5W
ブリッジダイオード:約1W
リニアレギュレータ:約5W
ブリッジダイオード:約1W
リニアレギュレータ:約5W
合計約11Wのエネルギーが損失で、熱として消えています。
ですので、変換効率は低く、次のように約30%です。
ですので、変換効率は低く、次のように約30%です。
変換効率=5.0W ÷ 16W ≒ 30%
言い換えると、入力電力の約70%のエネルギーが熱になって消えています。
スイッチング方式と比べると、「もったいない」と感じます。
スイッチング方式と比べると、「もったいない」と感じます。
トランス方式のメリットとスイッチング方式のデメリット
それでもトランス方式が現在も使われる理由があります。それは、ノイズが少なく、安定した電源を作りやすいからです。一方で、スイッチング方式は高効率ですが、高周波でオン・オフを繰り返すため、ノイズが発生しやすいというデメリットがあります。
パワー半導体の進歩で暮らしや社会はどのように変わるのか
ここまで見てきたように、パワー半導体は「電力を変換する」重要な役割をもっています。家電の中でAC100VをDCに変換するだけではありません。電気自動車(EV)では、バッテリーのDCをモーター用のACへ変換したり、回生ブレーキでモーターが発電したACをバッテリー用のDCへ変換します。太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーでは、発電した電力を送電用や家庭用に変換します。パワー半導体が進歩すると、私たちの暮らしはどう変わるのでしょうか。ACアダプターは、昔と比べて「熱くなく」「小さく」「軽く」なり、ポケットに入れて持ち運べるようになりました。こういった進歩は、たとえばEVでは走行距離や走行時間をさらに「長く」して、充電する電気代をもっと「安く」していくでしょう。
新しい材料やデバイス構造が研究されている
パワー半導体の進歩のポイントは、「高電圧」「大電流」「高速性」です。
現在の問題点:
* トランジスタのオンとオフを切り替える瞬間に発生する電力損失を「スイッチング損失」と言います。
これらの問題に挑戦する、新しいパワー半導体の材料やデバイス構造の研究・開発が進められています。材料は、現在主流のシリコン(Si)やシリコンカーバイド(SiC)に加えて、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)、ダイヤモンド(C)などの研究・開発が進められています。これらの材料とMOSFETやIGBTやHEMTなどといったデバイス構造の組み合わせにより、SiC-MOSFETやGaN-HEMTなどの新しいパワー半導体が生み出されています。
現在の問題点:
- 高電圧:耐圧が低く、高電圧に耐えられない
- 大電流:トランジスタのオン抵抗が高いため、大電流を流すと大きな発熱(熱損失)が生じる
- 高速性:スイッチング速度が遅いので、高周波で動作させると、スイッチング損失*による発熱が大きくなる
* トランジスタのオンとオフを切り替える瞬間に発生する電力損失を「スイッチング損失」と言います。
これらの問題に挑戦する、新しいパワー半導体の材料やデバイス構造の研究・開発が進められています。材料は、現在主流のシリコン(Si)やシリコンカーバイド(SiC)に加えて、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga2O3)、ダイヤモンド(C)などの研究・開発が進められています。これらの材料とMOSFETやIGBTやHEMTなどといったデバイス構造の組み合わせにより、SiC-MOSFETやGaN-HEMTなどの新しいパワー半導体が生み出されています。
パワー半導体の進歩で電力損失はどこまで減らせるのか
トランス方式とスイッチング方式のACアダプターを比較して、電力損失について考えます。

図18 変換効率
図18はトランス方式とスイッチング方式のACアダプターの変換効率を比較しています。斜線部が損失です。
トランス方式は、16Wの入力電力から5Wの電力を出力するために、11Wの電力を使っています。スイッチング方式は、6.3Wの入力電力から5Wの電力を出力するために、1.3Wの電力を使っています。トランス方式からスイッチング方式に変更すると、9.7Wの電力を省くことができます。9.7Wは、トランス方式の全電力 16W の60%です。
つまり、パワー半導体が進歩することで、今までと同じことを40%の電力で実現できるようになるかもしれません。
トランス方式は、16Wの入力電力から5Wの電力を出力するために、11Wの電力を使っています。スイッチング方式は、6.3Wの入力電力から5Wの電力を出力するために、1.3Wの電力を使っています。トランス方式からスイッチング方式に変更すると、9.7Wの電力を省くことができます。9.7Wは、トランス方式の全電力 16W の60%です。
つまり、パワー半導体が進歩することで、今までと同じことを40%の電力で実現できるようになるかもしれません。
家庭の電力消費量で考える
令和5年度の、世帯あたりの年間電力消費量は、平均で3,911 kWh(キロ ワット アワー)です。(※1参照)kWhは、1000Wの電力を1時間使うエネルギー量を表していて、一般家庭が電力会社から買う電力の単位にも使われています。1kWhを30円程度として計算すると、3,911 kWhの場合、年間の電気代は約11万7千円になります。月あたりに換算すると約1万円です。
パワー半導体の進歩によって、現在と同じ生活を40%の電力で行えるようになったと仮定します。年間の電力消費量は約1564 kWhで、年間の電気代は約4万7千円になります。年間で7万円も電気代を減らせるかもしれません。
パワー半導体の進歩によって、現在と同じ生活を40%の電力で行えるようになったと仮定します。年間の電力消費量は約1564 kWhで、年間の電気代は約4万7千円になります。年間で7万円も電気代を減らせるかもしれません。
日本全体の電力消費量で考える
令和5年度の日本全体の消費電力は 8797億kWhです。 (※2参照)
仮に、日本全体の電力消費量を40%まで削減できた場合、約5,278億kWhを削減できます。日本全体の火力発電所の発電量は、6776億kWhです。 (※2参照)5278億kWhは、その約8割に相当します。つまり、パワー半導体の進歩により、火力発電所のおよそ8割を削減することができるかもしれません。それはすなわち、化石燃料の輸入量や、CO2の排出量を大幅に減らせる可能性があることを意味しています。
仮定の話ですが、電力変換の効率を高めることが、電力消費量の削減につながることを示す一例として見ることができます。
仮に、日本全体の電力消費量を40%まで削減できた場合、約5,278億kWhを削減できます。日本全体の火力発電所の発電量は、6776億kWhです。 (※2参照)5278億kWhは、その約8割に相当します。つまり、パワー半導体の進歩により、火力発電所のおよそ8割を削減することができるかもしれません。それはすなわち、化石燃料の輸入量や、CO2の排出量を大幅に減らせる可能性があることを意味しています。
仮定の話ですが、電力変換の効率を高めることが、電力消費量の削減につながることを示す一例として見ることができます。
第1部で「パワー半導体」の役割や特性や電力変換の種類を、第2部でスマートフォンのACアダプターの仕組みを、そして第3部で「パワー半導体」の進歩と未来について解説しました。私たちは普段、コンセントに差し込めば当たり前のように電気を使っています。しかし、その裏側ではパワー半導体が「電力の交通整理役」として働き、必要な電力を、必要な場所へ、必要な量だけ届けています。目立たない存在ですが、パワー半導体は、私たちの暮らしを支える“縁の下の力持ち”なのです。
また、スイッチング方式で説明した制御ICも、パワー半導体と同じくらい重要な半導体です。制御ICなどの半導体設計は、私たち三栄ハイテックスの得意分野です。ぜひ、三栄ハイテックス公式サイトもご覧ください。
また、スイッチング方式で説明した制御ICも、パワー半導体と同じくらい重要な半導体です。制御ICなどの半導体設計は、私たち三栄ハイテックスの得意分野です。ぜひ、三栄ハイテックス公式サイトもご覧ください。
※1:
環境省 令和5年度 家庭部門の CO2排出実態統計調査
https://www.env.go.jp/content/000323408.pdf
結果について(確報値)
表1 世帯当たりの年間エネルギー消費量・支払金額・CO2排出量(全国)
エネルギー消費量 電気
3,911 kWh
※2:
2025年4月25日 資源エネルギー庁 ニュースリリース
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/pdf/gaiyou2023fykaku.pdf
エネルギー源別最終エネルギー消費
2023年度 電力 3167 ×10^15 J[ジュール] ≒ 8797億kWh
補足:
1kWh = 3,600,000J なので、
3167 ×10^15 J を kWh に換算すると、
3167 ×10^15 J / 3,600,000J = 879.7 × 10^9 kWh = 8797億kWh
環境省 令和5年度 家庭部門の CO2排出実態統計調査
https://www.env.go.jp/content/000323408.pdf
結果について(確報値)
表1 世帯当たりの年間エネルギー消費量・支払金額・CO2排出量(全国)
エネルギー消費量 電気
3,911 kWh
※2:
2025年4月25日 資源エネルギー庁 ニュースリリース
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/pdf/gaiyou2023fykaku.pdf
エネルギー源別最終エネルギー消費
2023年度 電力 3167 ×10^15 J[ジュール] ≒ 8797億kWh
補足:
1kWh = 3,600,000J なので、
3167 ×10^15 J を kWh に換算すると、
3167 ×10^15 J / 3,600,000J = 879.7 × 10^9 kWh = 8797億kWh